スガ
…ということで、今週はエルサレム2人めのイブラヒムなわけだけど。
寿太郎
はい。先週はユダヤ人のヨセフで、今週のイブラヒムはパレスチナ人。
スガ
○○人で分けるとそういうことになるのか。
でもイブラヒムは「イブラヒムの家」という、すごく特殊な場所のひとだし、英語もとてもうまいしで、ふつうに接しているとパレスチナ人ということを意識することもあまりなかったんだけど。
寿太郎
そもそもあそこの家の雰囲気そのものが、僕らに対しても、自分が外国人だってことを意識させないからね。パレスチナ人ユダヤ人アメリカ人ロシア人ウクライナ人中国人韓国人日本人、みんなごちゃごちゃで楽しくやっていた。
スガ
そうね。そうそう、ごはん食べ放題だしお茶飲み放題だし、宿代は決まっていないし。ああいうところがなんとかかんとか30年も続いているのは、ちょっとした奇跡だよね。イスラエル政府にはかなりお金を取られて、金銭的にかなりきびしいという話だけど。それでも爺ちゃんのイブラヒムも若い方のイブラヒムも、悲壮な感じは全然なくて。
寿太郎
イスラエル政府には(イブラヒムの立場からすると)不当な感じで罰金を徴収されたりしているみたいだね。政府には嫌われてると。悲壮な感じはないけれど、お金が大変なのはよく伝わってきた。そういえばピース・ハウスのウェブサイトでもドネーションの募集をしていました。「○○ドル集まるとトイレを改装できる」とか、リターンのようなものもあって。シンパシーというかなんというか。
スガ
これ見ると一日の食費70ドルとか、やっぱりなかなか大変なんだ。トイレとかもぼろぼろだったしね。
こう言うと何だけど、世界まわっていると、僕たち以上に金銭的に困っている人は山ほどいるじゃない。そういう人をよく見るせいもあるし、僕たち自身がお金に困って寄付をお願いしたりしていることもあるけど、旅に出てからなんというか、「金は天下のまわりもの」的感覚が、前より強くなってきたような気がしてて。まぁぼくは前からわりと財布の紐はゆるい方なのかもしれないけど。
寿太郎
ゆるいのはいいけど、CAMPFIREがサクセスしたらご支援いただいた分については慎重にやってくださいね。
で、金は天下のまわりものかもしれないけど、そのまわりかたがとてもいびつで偏っているという印象を受けることが僕は多いです。イスラエルは庶民レベルではべつに全然豊かな国ではないのに、物価はべらぼうに高い。この旅で初めて日本より高い国を経験したと思うけど、たとえば500mlのコーラのペットボトルが日本円で200円以上する。もちろんこの原因は、主としてイスラエル政府にあるわけだけど。
スガ
イスラエルの物価の高さはほんとうに異常な感じ。でも、ぼくらが旅行者として滞在していて困ったというのは置いておくと、あそこは高い物価の中でもふつうの人たちの生活がどうにか回っているようだったのがおもしろいというか、一応暮らせていけてるということは、それだけ収入もあるということじゃない。そのあたり、もうすこし取材出来ればよかったんだけど。
寿太郎
いや、あの異常な物価ではとても生活できない、という市民の不満はしばしば爆発してますよ。デモで抗議の焼身自殺までする人もいた、というニュースもあった。兵役関連の各種控除だとか手当てみたいのが充実してて、それで軍事関連の人はわりとやっていけるということは聞きました。とりあえず知識としてはそんなとこで。でも実際に軍隊の人とかと話せるとよかったけれど。
スガ
ああそうなんだ、なるほどね。かなりやばいバランスの中でなんとか成り立っているというか、成り立っていないというか。でもだとすると、イブラヒムの家もふくめて、あそこに住んでいるパレスチナの人たちは経済的にも相当大変ということだよね。それでもあそこに住み続けていて、その国が彼らの生活を苦しめているということを考えると、国とか故郷って、いったい何なのか、という。
寿太郎
「金は天下のまわりもの」でふと思い出したのだけど、ウェブ上にはたとえば「これこれの企業はイスラエルを支援しています、会長がバリバリのシオニストです、ぜひボイコットしましょう」みたいな企業リストがあったりするよね。あえてリンクを貼ることはしないけれど、そこにはマクドナルド、スターバックス、ネスレなどの名だたる大企業の名前がある。でもそこらへんはともかく、マイクロソフト、インテルとか言われると、それボイコットしたら生活できねえよっていうw あとディズニーもあったけど、イブラヒムとか普通にディズニーワールドで楽しんでたりしたのが面白い。
スガ
例えば宝くじであたった1万円も汗水たらして稼いだ1万円も等価値という身も蓋もない話が経済学の基本だけど、なんだかそれを思い出します。お金になってしまうと意味が剥奪されて、貨幣価値だけが残ってしまうというのが原則だけど、でも意外と、自分のお金くらい好きなお店とか、応援したい人とかに使いたい、と思うわけで。イブラヒムはディズニーでほんとに楽しんだんだろうし、いいんじゃないのw
ところで話は変わるけど、イブラヒムの家にはホントはもっと写真撮りたい人たちがいたんだよね。
寿太郎
はいはい。写真に写ってない人たち、いろいろといますね。
スガ
そうそう、ロシア人のアナとその家族とか。
彼女たちはなんだか宗教的に写真がノーだとかで、日本語教えたりけっこう親しくなったんだけど、結局、写真は撮らせてもらえなかった。自分の写真を一枚も持っていないというから本当だと思うんだけど、正教会系はイコンの伝統もあるし、ちょっと不思議だったな。
寿太郎
うん。偶像崇拝を禁じる系の宗教なら写真NGもわかるんだけどね。いろいろ複雑な事情があるんだろう。
スガ
うん、家族ぐるみで全員写真ダメだったからね。そういう人たちもいるんだなぁ、と。
寿太郎
家族ぐるみといえば、イブラヒム一家はすごかった。どこまでが一家なのかわからないレベルに大規模だし。
スガ
日本で言うとちいさなアパートくらいの大きさの建物に、一族が別々に暮らしてるかんじ。
寿太郎
そうだね。ただ暮らしは別々だけど、家族としての一体感みたいなものは強くあるように感じた。
スガ
夜遅かったせいもあるけど、お父さんはソファで寝てるし、盲目で耳が聞こえないというおばあさんが歩き回っているし、小さい子どもたちは床で直接寝てるし、ちょっと混沌としていて、かるく面くらったな。彼らにとってはふつうのことなんだろうけど。
寿太郎
盲目で耳の聞こえないおばあさんは、老イブラヒムの奥さんの姉妹だったかな。旦那さんがいるのかどうかはわからないけど、老イブラヒムがまとめて面倒みてる感じだった。
スガ
あとアラビックにゴージャスな室内とかね。応接間がドーンとあって、廊下とか居間とかにキラキラしたものがたくさんあって、そもそも壁の素材もキラキラしてるし。お父さんの若いころの写真が額に飾られているんだけど、それもなんだかすごく背景がアラビックで。ああいう家におじゃましたのは、じつははじめてだよね。ジハンの時に見たトルコの部屋はもっとモダンな感じだったから。