スガ
これぜったいおなじ風邪だねぇ。
出発から7ヶ月目にして、ついに、というかんじ。
寿太郎
完全に風邪ですね。頭重い、熱、あと節々痛いと。
まあ考えようによっちゃ、アフリカに入る前に悪いものを全部出しといたほうがいいのかもしれないけど。アフリカで熱でも出たら、すわマラリアかと大騒ぎですよ。
スガ
すわ! マラリアでもうダメだ!
寿太郎
熱のせいでテンションがおかしくなってますね
スガ
これというのもヨルダンが寒いせいだよ。
中東なのにこんなに寒いなんて思わなかったじゃない。
寿太郎
なんだか砂漠的な気候ですね。陽にあたっているときだけじりじり暑くて、日陰だとおそろしく寒い。
なんだかいやらしい寒さですよ。体の芯を的確に狙って冷やしてくるような。
スガ
そうねぇ。で、あれだ。砂漠といえば今週はサハラ砂漠でしたよ。
寿太郎
サハラは凄まじかった。砂漠といって思い浮かべる、あの砂漠だからね。
スガ
夜中にひとりで砂丘に登ったら流砂に埋まりかけたのも、今はよい思い出です。
寿太郎
俺も夜中に砂丘に登ったら迷子になりかけていた。
スガ
ドキドキするよね。地平線のなかにいきものの気配がほとんどなくて、なにしろ簡単に死ねそうで。
寿太郎
あれはなかなか表現するのが難しい。夜中は風が強かったりして、どんどんこちらの方向感覚が狂ってくるし、なんだか生き物でない恐ろしい何かの意思が働いているような感じがあった。月明かり、星明かりも異様な明るさだし、なんだか現実離れしていた。
スガ
サハラそのものが巨大なばけものみたいなね。
寿太郎
今週の脚注でもちらっと紹介した『サハラに死す』を読んだけれど、魅入られてしまう気持ちもわかるような気がする。砂漠には妖しい魅力がありますね。
スガ
そういえば、モロッコの人たちも砂漠のこと語る時、誇らしげだったよね。サハラじゃどや、みたいな。
寿太郎
なにしろ世界一だからね。あれは確かに誇るべきものでした。
スガ
日本で砂と言ったら、鳥取砂丘くらいだもんね、サハラ出されちゃぐうの音も出ない。
で、えーと。取材したムバラクは元ノマドだったけど、元というか、ノマドを辞めてからますますノマド的な生活になっているという。
寿太郎
そのノマド的な生活というのは?
スガ
いやきみのレポートでもかいてたじゃない。
寿太郎
そうだっけか
スガ
ムバラクのいる場所が仕事場になる、ってやつ。
寿太郎
はいはい。「ノマド的な生活」という言葉にピンとこなかったけど、確かにそれはそうです。
というか「ノマド的な働きかた」になっていると。べつに「ますます」ではないと思うけれどね。
スガ
ますます、というのは日本で流行り?の「ノマド」にひきつけて見ると、ということ。ノマド=遊牧民という生活を捨てて定住者になったけど、遊牧という中心がなくなった分、手を出す仕事の幅が広くなって、「できることはなんでもやる」状態ていう。日本で会社をやめて、フリーになった人にかぶって見えるなと。
寿太郎
なるほど。ムバラクの場合は「ノマド→定住」でそういう変化が起こっているけど、日本では「会社→フリー」でそういう変化が起こる。そうすると構造としては逆になってますね。
スガ
そうそう、ムバラクは長い目で考えて、ノマドという生き方をやめることを選んだわけだけど、そのためには外部環境の変化に対応できるようにいろいろな技能を身につけている、というね。逆の構造なんだけど、伝統的な生き方を捨てるために必要とされるものは似ているんだな、という。それが面白いと思ったよ。
寿太郎
ムバラクはたぶんノマドの中では特殊で、ノマドとしての外部環境のみならず定住における外部環境のシステムにも適応できる能力・技能があったんだよね。だから、ノマドとして生きるうえでの不利益とかリスクから脱出することができた。
日本でノマドワーカーになろうとしたら、外的なリスク要因のことを熟慮しないわけにはいかないわけだけど、逆にムバラクの場合はノマドとしてそれに対応できる力がありながら、子どもたちの先を見据えてリスクを減らしていく方向にいったというような気がします。
スガ
ただ、僕たちの泊まった宿のスタッフとかにも、親はノマドだけど、自分は英語が喋れるからガイドとして働く、みたいな人たちがいたじゃない。だからムバラクほど、とはいかなくても、教育とか医療とかの定住のメリットとか、貨幣経済へのアクセスを考えてノマドを離れる、というのはひとつの趨勢な気がしたな。
寿太郎
そうだね。気候の変化みたいなこともあって、とにかくノマドにとっては暮らしにくい環境になってきているということはムバラクも言っていた。この2〜3世代にわたって、彼らをめぐる状況は劇的に変わっていくんじゃないかな。それに人一倍敏感で、様々なことを考えているのがたとえばムバラクだ、と。
スガ
そういうことかな。
ところで今週はまた、英訳お手伝いに新メンバーが加入! と。
寿太郎
西川光さん、京都から忙しい中協力してくださってます。ありがとうございます。彼女はハワイアンな京女なので、英語の面でもとても心強いです。
スガ
ハワイアンな京女…、それはハワイ育ちということですか、それとも性格的にハワイアンということですか。フラダンスに夢中、とか。
寿太郎
いや、留学してハワイの大学で学んだ経験があるということです。京都の大学で一緒だったんだけどね。性格的にハワイアンなのだろうか…? 日本人ぽくないとはよく言われるそうだけども。ともかく緻密にしっかり訳してくださってます。
スガ
ほーそうですか。ありがたいことです。
寿太郎
今後ともよろしくお願いいたします。ということで。
スガ
はい。というわけで今週のおたより。
東京都にお住まいの、納豆と米があわさる食感が苦手さんより、エアメールを頂戴しました。
「アフリカとか中東とかの宿って、ちょっと想像できません。どんな宿に泊まっているんですか?」とのことです。
寿太郎
納豆と米があわさる食感が苦手な感覚というのが、ぼくは想像できません。ああ懐かしい。納豆食べたいですね。
スガ
ぼくもそう言ったんだけどね。最近は納豆菌は宇宙人であってぼくたちは侵略されてる、という説があるじゃないですか。それによると、ぼくもきみもすでに洗脳されていることになるようです。(納豆菌の侵略についてはこちらなどをご参照ください)
寿太郎
ええ、そんな説があるの? 菌が宇宙人ってどういうことだ。しかしそれを洗脳と呼ぶのなら喜んで洗脳されようという感じですね。
で、宿についてですね。
アフリカと言ってもまだモロッコのみ、中東もトルコを含めなければここヨルダンのみですが、なかなか面白い宿に泊まりましたよね。特にモロッコなんかは。
スガ
フェズなんかはリヤドというタイプの宿、もとは伝統的な住宅だった宿に泊まって。なかなか優雅でありました。
寿太郎
建物の中に吹き抜けがあって、噴水があったりしてね。最近はこのタイプの宿泊施設、増えてきてるみたいです。リヤドなのにドミトリーがあるというとこがあって、ちょっと泊まってみましたね。
スガ
あれはなかなかいいものだったね。細密模様がきれいで、女の子にもおすすめできる感じで。あとサハラ砂漠の宿はやっぱり、かなり砂っぽかった。
寿太郎
砂漠地帯に突然ある感じだもんね。砂っぽいのは仕方ない、避けられない感じ。中国最西端のカシュガルもあんな感じだったな。ただ雰囲気はあった。
スガ
うん。まぁシャワーの水がか細かったりはするんだけど、さすがにサハラ砂漠ともなるとあきらめもつくってもの。いちばん問題あるのはヨルダンのこの、今の宿かもしれない。ドアノブは壊れて部屋から出られなくなるし、南京虫出没の噂もあるし、なにより寒い。
寿太郎
ここの宿は色々いわくつきのというか、有名な宿なのだけど、まあそれは旅行記などでのちに触れるとして。本当に、なんでこんなところで風邪をひかねばならんのか、という感じですね。南京虫は本当に恐ろしいし、安心して寝込むこともできない。
スガ
そうですね、また来週。