スガ
オランダに入った途端に、急に陽が射してきたよ。
寿太郎
いい国ですね、実にね。陽が射すなんてフレーズを使えるのはいつ以来だろう。
スガ
たしかヴィオラの取材でオトフォークにいった朝かな。あの時は晴れてたけど、それを入れても、今年に入って2回目くらい? かもしれない。
寿太郎
そういえばオトフォークは一瞬だけ晴れたね。しかしそれにしても、ヨーロッパの冬は陰鬱。旅行記とかずっと暗い雰囲気だけど、あれは別に俺が暗いからじゃなくてほんとに暗いんですよ。何もかも。
スガ
寿太郎くんが暗くないというのはちょっと賛成できないけど、たしかにヨーロッパの冬は暗いからね。気候のせいで3割増しくらいに暗くなってる感じはあるね。
寿太郎
まったく太陽のように明るい人物に何を言っているのか。まあ、というわけで長かったドイツもついに出て、現在はオランダ行きのバス車内というわけですね。
スガ
そう。移動中にアフタートークをするのははじめて。あ、あと長かったドイツから移動と言えば、ぼくたち、もう2週間後にはアフリカにいるんだよね。
寿太郎
そう。というか、ノービザ滞在期間のリミットの関係で、出ざるを得ないんですね。ちょっとすっ飛ばしてしまうのが残念だけど、また戻ってくる予定もありますし。その代わりにベルリンとかでは濃密な取材ができてよかったです。
スガ
ヨーロッパのEU加盟国合わせてノービザ滞在3ヶ月まで、というのね。それだけあれば十分だと思ってたけど、取材しながらだとあっという間で。さすがに東欧に偏り過ぎなところはあったから、夏ごろに戻ってきてもうすこしやる予定。で、えーと今週はベルリンね。
寿太郎
EU加盟国というか、シェンゲン協定加盟国ね。微妙に違うのがややこしいです。で、その東西のかつての境目だったベルリン。なかなかカオスな街でした。
スガ
東西の境目、ていうかベルリンて東ドイツなんだよね。ぼくも今回旅するまでちゃんと知らなかったけど、壁は西ベルリンを取り囲むように建ってて、そのまわりは全部東ドイツ。東西ドイツの間には壁もなかったという。
寿太郎
東西ドイツの境界自体に壁作ったらえらく長い距離になっちゃいますからね。万里の長城もびっくりだ。でも俺も小さい頃は、ほんとに東西の間に壁があるんだと思ってました。今のベルリンはバラエティ豊かで、注意して見ないと旧西の地域なのか旧東の地域なのかわかりにくい場合も多いです。
スガ
そうそう。今回取材したシュナイダーの住んでるプレンツラウアーとか、旧東のなかにはすっかりコジャレた地域になってるところもあるからね。
寿太郎
そうだね。古い建物の構造とかを見ると、旧東の特徴が出てる場合だとかがあるみたいだけれど。でも綺麗にリフォームされているケースもありますからね。
スガ
うん。ベルリンのごちゃごちゃしててカオスな感じ、ぐっとくるものがあった。
え、おい、アムステルダム着いちゃったよ。
寿太郎
予定より1時間以上も早い。なんだこりゃ。しかもまたどんより曇ってきましたよ。よくない。
スガ
光が見えたのはバスのなかの一瞬で、僕たちが着いたらまた安定のくもり空。
というわけでひきつづき、バスの待合室からお送りします。
寿太郎
ベルリンはほかのドイツのどんな都市とも違う特殊性がありましたね。城や教会などを中心にこじんまりとまとまっているわけではない。というか全くまとまりがない。常に流動的で、いろんな側面があって魅力的という感じですね。
スガ
ベルリンは外から集まってくるアーティストが多いとは聞いてたけど、カオスな分なにか新しいことをはじめられそうな、そういう予感とか気配が満ちてるというのかな。ひとつの都市でも地区によって感じがぜんぜんちがうというのは東京にも通じる感じがしたけど。
寿太郎
あと、まあ次のライプツィヒにもいえることだけれど、旧東側から西側に人やモノがどんどん動いていってしまったあとの隙間みたいなものがあるようなことを感じた。それは空間的な意味でも、そうではない抽象的な意味でも。そういうところに若い表現者たちが可能性を感じて、なにかを創造していくということなのかもしれない。
スガ
それはあるよね。隙間があるから新しいものがそこからはじめられるという。
寿太郎
ワルシャワあたりからずっとだけど、何もない壁ってのをよく見ましたね。元々隣に建物があったんだけど、それが取り壊されてしまうと、窓も模様も何もないただの壁が出てくる。で、それがグラフィティ・アーティストたちのための格好のキャンバスになると。たとえばそういう状況は象徴的かもしれない。
スガ
で、今週のシュナイダーだけど。彼はドイツ国内ではふつうにツアーとかするくらいに人気があるんだよね。まさかそんな人にインタビューできることになるなんて思わなかったからびっくりした。Biotope Journalのサイトのシステムとかでお世話になっている方が小塚さんを紹介してくれて、小塚さんと会ってみたらなんかいろいろぶっ飛んだ人で、なんだこの人は! ってびっくりしてたら翌日にはもうシュナイダーにインタビューできるとかで、ますますびっくりした。
寿太郎
なんだか怒涛のごとくいろんな人にお会いして話を聞くことができましたね。どこの国から来たにしろ、ベルリンでお会いした方々は全員とても個性的だった。
スガ
いやほんとにユニークな人が多かった。シュナイダーは穏やかな人だったけど、音楽やりはじめると途端にいきいきしちゃう感じとかね。彼はまたライブで日本に来たりするかもしれないから、また会えるといいなと思うよ。
寿太郎
まったく。そしてぜひ、日本でももっと知られるようになって欲しいですね。
はい、そして、今週のお便りのコーナー。
スガ
今週は、東京都にお住まいの「眠れぬ夜が大好きさん」から、エアメールをいただきました。
「おふたりがふだん、どんなものを食べているのかが知りたいです。食べものの記事ではおいしそうな料理が紹介されていますが、いつも美味しいものばかり食べているのでしょうか…。うらやましい!」
寿太郎
なるほど。まあ、食べものの記事では美味しそうなものを中心に載せてるわけですからね。
スガ
ほんとは美味しそうじゃない写真もたくさんあるんだけどね。サイトに載せるとグロ画像になってしまうから自重している。
寿太郎
基本的には、いちおうその土地のレストランのようなところで、地元の食べものを一度は食べるようにしてますね。中国だの中央アジアだのでは、そのへんでごはん食べたらそれが地元の食べものだったりするのだけど、ヨーロッパではほっとくとケバブだらけになりかねないから。でもけっこう高いんですよね。毎回食べるようなことはできない。
スガ
うん。ていうか、先進的な都市に行けば行くほど、地元の人の食も多様化してて、その土地固有の伝統的な食とかにこだわるのはむしろ観光客、っていうところもあるかもしれないけど。まぁそれにしてもちょっとは食べたいというのはある。クラクフのめしはうまかったなぁ。
寿太郎
そうだね。それは日本でもいえることで、皆がいつでも寿司だの天ぷらだの食べてるわけじゃないからね。ある意味ではファストフード、牛丼なんかのほうが日本らしいかも。でもたとえば中央アジアでは、皆がいつでもラグメン食べてるんだよね。クラクフの飯は本当にうまかったですね。ランチタイムでお得に楽しませていただきました
スガ
ベルリンで一番通ったのなんてインドカレーの店だからね。
寿太郎
ベルリンはインターナショナルすぎてなんでもあるし、ドイツらしいものを探すのがやや難しいぐらいなんだよね。前回メルマガで触れた唯一まともだった寿司屋もベルリンだったし。あとはまあ、ベルリンといえばカリーヴルストかな。
スガ
ベルリンが住みやすそうな気がしたのはそのへんもあるね。アジアンフードとかもすごく安くて、意外とイケるのをだす店がけっこうある。カリーヴルストはなにか力いっぱいジャンクな感じのやつを食べたね。伝統的なドイツ飯みたいのはあそこで一度も食べなかったけど。
寿太郎
活気あるんですよね、アートにしろメシにしろ。常に動いている感じがするし、そういう飯屋はうまいですよね。まあ、ただそういう店を見つけにくいような街では、自炊に向かうことも最近は多いですね。ワルシャワだとか、ライプツィヒだとか。
スガ
ワルシャワもライプツィヒも、宿をとった場所が繁華街に近すぎたというのがあるかもしれないけど。安い飯屋がないところだと自炊。今週寿太郎くんが旅行記でも書いているけど、まぁ自炊も、悪くはないよね。
寿太郎
そう。旅行記の繰り返しになるからアレだけど、美味しいものをしっかり作れたときは、なんだか精神衛生もよくなる気がするよね。最近はなんだか腕も上がってまいりましたし。
スガ
今までのレシピはペペロンチーノとシーチキンスパゲッティと娼婦風スパゲッティ、てやつ? あと寿太郎くんは半熟卵を作ることにかけてはなみなみならぬ情熱を燃やすよね。
寿太郎
娼婦風スパゲッティはプッタネスカとも呼ばれるやつですね。『ジョジョの奇妙な冒険』第4部に出てきたやつとほぼ同じレシピで作っております。簡単でおいしくできますね。トマトソースをちゃんとトマトから作るのが楽しい。あと、半熟卵好きなんですよ。おいしいし、栄養あるし、なにしろ時間を正確に測るだけで作れてしまうのが楽でいいですね。
スガ
そうですね。また来週。